ぐるぐる通信 in Paris 「パリってやっぱり面白い」

だだっ子の子供のように文化庁在外研修員で外国に行くんだ、行くんだと、もう10年も前から常々周りの人々に言っていま したが、ようやく念願叶って昨年9月から一年間パリに銅版画の研修に来ています。

研修先としてどこでも好きな場所を選べるのにどうして今さら「パリ」なんだと不思議がられますが、やはり「芸術の都」は「パリ」ということです。これは決してふざけて言っているのではありません。この街には本当にじっくり創作をすることを許してくれる大らかな空気感があるのです。日常生活的に言えば、日本の常識からす ると冗談のようなことの毎日ですが、数百年前から変わらない生活 スタイルと現代生活が良くも悪くも混ざって、みんながワガママ 言って当たり前的な雰囲気が出来ている人間主義的なところが、こ の街の本当の魅力かもしれません。当然、毎日が戦いになります が、僕はそんなこの街がすっかり気に入って本当はもっと長く住み たいなあと思っています。

僕が通っている工房は80年位の歴史がある銅版画工房で現在 10カ国以上の年齢性別のばらばらな人達が自由に版画の制作をして いますが、もっとも楽しいのはその作家達とのコミュニケーション です。特にラテン民族とのアジア民族との天地のほどのある考え方 の違いが、互いに滑稽に見えていてなんとも愉快に思っています。 僕は動物的なラテン民族を「犬っぽい」といつも思っていますの で、もしかしたら向こうは、こいつは「猿だなあ」と、犬猿の仲の ように思っているかもしれません。今はそんな環境の違う余所様の 台所からどんな作品が産み出せるのか自分でも楽しみにしています。 「まあどんなものが産み出せるのか自分でも楽しみにしていま す。」と、いうところで前回は終わりましたが、滞在も残り半年を切ってそんな悠長なことも言っていられないなあ。と、思っていた 所に素晴らしい機会が訪れました。もう何年前にもなりますが、た またま手にしたカタログに記載されていた素敵な詩に目が止まりま した。その詩を書かれたのが、パリの詩人「ロベール・マルトー」 氏です。多くの作家とコラボレーションをして詩画集を制作してい る彼との運命的な出会いで、オリジナル詩画集の制作がパリで始ま りました。

しかし話しもろくに伝わらないのに良くもまあいろいろと話を纏めてくると笑われますが、旅に出ると動物的本能が働いて言葉以外のコミュニケーション力が鋭敏になるのかもしれません。言葉を超えた、この「伝える」ということに重きを置いた表現方法に、僕の中の何かが強く動き出したように思います。今後は僕がイメージするなにかを穏やかにそしてシンプルに相手に伝える方法を、ジャンルにこだわらないで選択出来たらと思いはじめています。この大きなターニングポイントを曲がった結果は、すぐには目に見えないでしょう。しかし揺り動かされた感覚から生まれたエッセンスは時間を掛けていつか形になるだろうと信じています。すべての世の中が即決の時代にとても贅沢で悠長なことですが、僕の創作のインスピレーションはそんなゆっくりとした時間から生み出されるものかもしれないと、この旅でうっすらと気づき始めたように思います。

ぐるぐる通信 in Paris 「パリってやっぱり面白い」 2009年
(すどう美術館ニュース AQUA 第8.9号に掲載)