フランスでの IAA UNESCO カードの使用について

随分前から海外での美術家の地位を保証するカードの制作に連盟が奮闘していると聞いていました。そんなカードが、ついに2008年の秋口に配布されることになったので、2008年9月から一年間、文化庁在外研修員として渡仏している間に、このカードがどんな効用を持っているのかいろいろな場所で試してみることにしました。私が滞在したパリにはUNESCOの本部があり、UNESCOという存在は非常に浸透しています。そのため、このカードは美術家としての身分保障として、幾度も言葉の不自由な私の活動を助けてくれることになりました。特に美術館や博物館に入館する際はこのカードを提示することで、長い列に並ばなくとも済んだり、無料になったりすることもありました。しかし、どこでもそれが通用する訳ではありません。フランス社会では日本のように末端の係員にまでが決まり切ったマニュアルを持って働いている訳ではないので、現場の職員の裁量次第で、なんでも物事の采配が決まってしまいます。そのため切符売り場でカードを見せるのではなく、切符切りの所で提示して、あとはその係員がそのカードを見てどう思うかだけなのです。私はパリのいろいろな美術館でこのことを試して見ましたが、こちらの国立美術館では入館出来ても、こちらは出来ないという、いつもその場の雰囲気や担当者で結果が決まっていました。

そんな中で、このカードが入館料無料化以外に役立ったのは、パリの2区にあるフランス国立図書館(Bibliothèque Nationale de France)の版画写真部で古典オリジナル版画を閲覧した際です。国立図書館では火曜、木曜日(水曜日は研究者日)の午前10時から12時までアーティストがオリジナルの版画(例えばデューラーやレンブラント)を手にとって見ることが出来ます。初回、通訳を通じて聞いて見たところ、古典オリジナル版画部門は誰でもが見られる訳ではなく、アーティストだけが見ることが出来ると言われましたので、このカードを提示した所、身分保証されているので複雑な手続きを経ることなく閲覧が可能になるということでした。しかし二度目に訪れた際には、残念ながら別の係員だったために、入館カードを作ることになりましたが、フランス語の不自由な私にとっては、その際にもこのカードを見せてプロアーティストとしての身分保障にすることが出来たことは非常に幸運でした。図書館の入館カードは、カードセクションですぐに制作してくれ、その日にオリジナルの閲覧が可能となりました。版画・写真部門のスタッフは英語を話すスタッフもいて、非常に丁寧で迅速な対応で、こちらの見たい版画を用意してくれます。そのようなことで版画の研究をするために行ったパリで、このカードは大いに私の手助けをしてくれました。今後もいろいろな国で研究・調査をしてみたと思っているので、フランス以外の国でどの程度このカードが効用するのか、今後も試してみたいと思っています。

2010年美術家連盟会報に掲載