新作版画集 浮遊する世界を描く、言葉と版画による詩画集

彼らの出会いは3年以上も前のことだ。ある日、大矢が読んだ谷村秀格の俳句がかねてから詩画集の作成を望んでいた大矢の琴線に触れたことから、この制作が始まった。

物事の徹底的な観察・考察の末に版画を制作する大矢に対し、「自然流、宇宙流」をうたう谷村の俳句は、浮遊するイメージを感覚的に言葉で紡いでいく。既にある谷村の俳句から大矢が選び、その言葉の世界を分解し、版画に再構築していく工程は、それまでの大矢の制作スタイルとはまったくことなるもので、「手の中からするりと逃げていく言葉を版に引き留めるような作業だった」と大矢は語る。

そして1年がかりの試行錯誤の結果、前衛書家でもある谷村自筆による句と、木版画と銅版画の世界が重なる7枚の作品が完成した。二ツ折りに仕上げられた各葉の表には、二人の指紋のような、樹木の年輪のようなイメージが木版画で摺られ、それを開くと冷静な絵と奔放な言葉が紙面を彩っている。右から左へと走ったかと思えば左右に分断し、そうかと思えば沈黙する谷村の言葉に、大矢の版画は静かに呼応してその世界を露わにする。まるで絵と言葉の役割が逆転したかのような、面白い感覚だ。

それらはふわふあとした真白い箱に収められ、春風になびく蜘蛛の糸の不確かな光景をさす春の季語、「糸遊」と名付けられた。手のひらから伝わる手触りや墨のにおいと共に、二人の小宇宙を感じたい。

「新作版画集 浮遊する世界を描く、言葉と版画による詩画集」 大矢雅章 + 谷村秀格
(阿部出版「版画芸術 No.140 / 2008 夏号」掲載 インタビュア:本誌 友澤宏子)