その既視感は銅の大地に波紋を描かせた。そのひろがりがどこへ響くのか、いまはまだ知らない。

ある日、突然この場所に来た。自分の意志とは必ずしも無縁とはいえないが、成り行きでここにいる。はじめて見る緑の風景の中を、褐色の河は遙か先まで続いている。小舟の舳先から見える風景に変化はなく、ただ流れている。そう、ただゆっくりと。ばんやり眺める風景の先には青い空が広がり、美しい緑が広がっている。いつまでも変化のない風景は、なぜか私にモノクロームの世界を魅せる。

突然、波のない河にぽつぽつと雨が降る。いくつもの波紋が広がりはじめ、リズミカルに広がってゆく。限りなく降り続く雨は、退屈な風景にあらたなイメージを創り出す。ぐるぐると広がる黒褐色の波紋は、私を過去の思い出へと誘う。

一度見て見たいと思うものはたいてい期待はずれのものが多い。
しかしそれを覆すものに出会えた時の思いは、新しい一ページを私の心に残してゆく。金色に輝く涅槃像を見たとき、あまりの大きさに息を飲む。寺院内に遠く響く鐘の音が、心の奥底から何かを呼び覚ます。錯覚か。現実か。

鐘が創り出す音色は確かに、私にあの波紋を思い起こさせた。でもそれではない。いつかの思い出なのか。たぶんちがう。例えようもない心地よい音色は黒褐色と共に幾星霜を越えて、私の鎖に刻まれた記憶を三千世界に紡ぎ出してきたのか。ただ漠然としか感じることの出来ないこの思いを掴むことはもう出来ない。ただその思いに次にどこで逢えるのかもわからない。

無限に広がる色彩と音色の迷宮。鍵はどちらか一方でも開けない。
そう二つでひとつ。いつあえるか分からない、共鳴の鍵。

大矢雅章 2004

作品リストLinkIcon