時間の流れが変化すると、見えている風景もそのスピードに応じて変化を見せる。慌ただしい時間を過ごしている間には、ゆっくりと流れる時間のなかから見える風景には、想像もしない不思議がパズルのように隠されていることを知る由もない。

ゆっくりとした時間がもてるようになったとき、アトリエの外にある温湿度計を眺めて風の動きや天候を気にするようになった。気にしていても雲や風は一日として同じ顔を見せない。

それがいい。

この人智を超えた気まぐれの中で永遠に育まれるだろう、すべての現象は荒波にもまれる小舟のようにゆらゆらと揺すられている。その大海の中で、僕の好きな木蓮の花が今年も紫の艶やかな華を咲かせた。木蓮は咲いているときよりもその散り際が美しい。地面に落ちた大きな花びらは白い絨毯を思わせる。静寂の中に美しい色彩を伴い、散り際に見せる光景は永久に続く生命の営みと美しい音色を放つ。

そのゆらぎゆく世界から掴み取った一瞬を版に写し取ることはどこかシャッターを切る感覚に似ている。写し取った一つのイメージからの生まれる新たな形象の連続性は無限の色彩をその形象の中に伴って現れる。銅版に密閉されたイメージはプレスされることで無限の色彩を伴って紙の上に鮮やかに立ち上がる。

ゆらぎゆく世界に垣間見える色彩と形象の変容への興味がアプリオリトワネ「a priori towane」(ア プリオリ=前のものから・先天的な(ラテン語)・トワネ=永久音を掛け合わせた造語)となって私に新しい可能性を見せてくれた。

                                        大矢雅章 2003

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